2018年『マイ・フェア・レディ』日本版、両ペアの初日を観劇しました(@東急シアターオーブ)。予想外に素晴らしかったです。
実は、日本では初見でした。せっかくなのでざっと感想を。
ペアを固定したダブルキャストというのはわりと珍しい気がしますが、現代的で芝居ウマな朝夏・寺脇ペアと、シンデレラストーリー的で歌ウマな神田・別所ペアは確かにそう簡単には入れ替えられないのかも。演出も違いました。
そもそも朝夏まなとさんのイライザと神田沙也加さんのイライザの魅力が違います。わかってはいたことですが、実際に続けて観てみると全く別のところで心をくすぐられるのがとても新鮮でした。朝夏イライザにはドラマとリアリティがあって、神田イライザには夢中にさせるようなヒロイン性がある。
物語の序盤、ヒギンズ教授とピッカリング大佐が「イライザに言葉遣いと振る舞いを教え込めるか」を巡って賭けをしますが、個人的には「できる」に賭けたくなったのが神田イライザで、「できない」に賭けたくなったのが朝夏イライザ。
神田イライザはいかにも素質がありそうな雰囲気を醸し出しているのですが、朝夏イライザは正直かなり無理そう(笑)。でも何が起こるかわからない面白さがあって目が離せませんでした。
超が付くほどのお転婆。物語が進むにつれて見違えるように変わっていきました。そして、ツンとした感じの寺脇ヒギンズと物怖じしない朝夏イライザの掛け合いは単純に面白い。
個人的に、朝夏イライザが一番生き生きして見えたのは2幕の “Show Me” (証拠を見せて)というというナンバー。後半に行けば行くほど魅力が増していって幕が下りたその先も見てみたい。元宝塚トップスターという貫禄と器の大きさが良い方向に出ていたと思います。
神田イライザはコヴェント・ガーデンのアイドル。抜群の可愛らしさ。例えば、 “Wouldn’t It Be Loverly?” (だったらいいな)は彼女が歌うと絶品の “I Want” ソングになります。“I Want” ソングとはミュージカルで主人公が序盤で自分の望みを歌う歌。『アナ雪』のヒロインなどをされているので、この辺りはバッチリ。
神田イライザの魅力を感じたのは、クライマックスに向けた別所ヒギンズの一言。「一緒にいると楽しい」。別所ヒギンズが神田イライザに向けて発したこの台詞にはものすごい説得力と含みがあって、ハッとさせられたような気分でした。まさに不意打ち。
神田イライザの場合、彼女に翻弄される周囲の人間たちが面白いのかも。
ちなみに、イライザがヒギンズ教授の元を去るというエンディングが注目を浴びた2018年のブロードウェイリバイバル公演は、映画『ピグマリオン』を強く意識した演出で、イライザとヒギンズの対等さを意識したキャスティングが斬新と言われましたが、神田・別所ペアからは2018年のブロードウェイリバイバル公演とは対極にあるようなイライザとヒギンズ像を感じます。
一つだけ言わせていただくとすれば、”I Could Have Danced All Night” (じっとしていられない)は両ペアとも初日は60点くらい。この曲が1幕ラストでなくてよかった・・。音程は問題ないのですが、やはりもう少し声量がほしいです。まぁ、初日でしたからね。
でも、控えめな「じっとしていられない」のおかげで、その後に “On the Street Where You Live” を朗々と歌った平方フレディの興奮が3倍くらい伝わってきたのはよかったです。あと、アンサンブルナンバーはコーラスに厚みがあって本当にどれも素晴らしかったなぁ。
ブロードウェイの再演の場合、「今それをやる意義」とか「新しい解釈」とか「新しい見せ方」が問われることが比較的多いけれど、日本の場合はあまりにも多くの作品が短いスパンでしょっちゅう再演されていて、「キャストは誰?」みたいなところが注目されるので、とりあえず「こういうイライザとヒギンズもありだな」と思えれば個人的にはひとまずOK。
古い作品で休憩含めると3時間10分の長丁場でしたが、満たされた時間を過ごせました。客席の反応を見た感じ、残りのチケット、捌ける気がします。