シンシア・エリヴォが日本に、『4Stars』に、そしてスターに・・。一言でいえばそんな感想でした。
『4Stars』の公演自体が初めてではなかったし、他の作品等で拝見したことのあるキャストばかりだったので、驚きや目新しさはありませんが、楽しかったです。
ラミン・カリムルーさんは半年前くらいにブロードウェイの『アナスタシア』で拝見したばかり。『アナスタシア』ではラミンさんが十分に活かされているとは言い難かったので、安定の『オペラ座の怪人』や『レ・ミゼラブル』が聞けてよかったです。次の役に期待。
シエラ・ボーゲスさんは可憐な歌声を存分に披露。前回の『4Stars』公演は、女性出演者がシエラさんとレアさん(レア・サロンガ)だったので、得意分野が若干被るようなところがありましたが、今回のシンシア・エリヴォとは全く被らないので、ディズニーや王道ミュージカルの主演女優曲を歌いたい放題。どれも心地よく聞かせてもらいましたが、『エリザベート』の「私だけに」を日本語で歌われたのにはビックリしました。海外アーティストが来日したときに、部分的に日本語で歌っている人はよく見る気がしますが、あの大曲を丸ごと日本語で歌いきってしまったシエラさん。前半は曲の内容と不安な日本語がリンクしているような気がしてこっちまで緊張しましたが、最後は圧倒的な歌唱で完全に持っていかれました。渾身の「私だけに」日本語バージョンと『オペラ座の怪人』の “Wishing You Were Somehow Here Again” が特によかったです。欲を言えば、もう少し喋ってほしかった。井上芳雄さんのラジオ番組などを聴いて補充しましたが、サービス精神が旺盛で明るい方なので。
城田優さんは1曲目の『ピピン』の Corner of the Sky からサマになっていて、しっかりと役目を果たされていました。
そしてシンシア・エリヴォ。
私が彼女をブロードウェイで拝見したのは2016年の5月。彼女がトニー賞主演女優賞を受賞する直前でした。つまり、私が見たことがあるのは “Tony-winning actress” でない最後の彼女。だから当時、彼女のことを「スター」としては見ていなかったと思います。すでに話題にはなっていたし、知る人の間ではトニー賞主演女優賞は彼女だと噂されていたけれど、彼女の名前だけでチケットが売れていたかというとそれは疑問で、当時の実際の観客動員には助演のジェニファー・ハドソンがかなり貢献していたと思われました。(勿論、見終わったときには私も彼女のトニー賞受賞を確信しましたが。)
それが今回の『4Stars』での扱いや売り出され方をみて、「あぁ、もう完全にスターになったんだ」と実感しました。
でも・・。スターと感動は別。今回、公演の公式サイトをはじめ、シンシア・エリヴォの紹介には至る所で「ショーストップ」「劇中にも関わらずスタンディング・オベーション」と強調されていましたが、意識されすぎたのか、 I’m Here の後の空気には少々違和感を感じました。ブロードウェイでは連日スタンディングが起きていたらしいからとか、ショーストップを経験してみたいからとか、そういうのでなかったことを願います。
誤解を恐れずに言えば、個人的には、今回の『4Stars』の「アイム・ヒア」( I’m Here) は、ブロードウェイで本公演を観たときの衝撃的な感動には及ばなかったです。というか、すでに一度観たことがあったからかもしれません。I’m Here は『カラーパープル』という作品の一部であり、私の心を揺さぶったのはセリーという役を生きるシンシア・エリヴォだったからかもしれません。でも、多分それ以上に、スターが歌うのではなく、シンシア・エリヴォという1人の女優が “Tony-winning actress” になる瞬間に歌う I’m Here だったからこそ、あんなにも響いたのかな、という気がしています。
パフォーマーも観客も、日々変化していく。感動はそのとき限りのもの。どんなに「あの時の感動をもう一度」と願っても二度目はありません。まさに一期一会。あのとき数ある演目の中から『カラーパープル』を観ると決めた自分に感謝。
「すごい!」「圧巻!」という感想はSNSや他のプロモーション系の記事で十分目にしたので、ちょっと違うことを書いてみましたが、それでもシンシア・エリヴォがすごいということに変わりはなく、スターになった彼女が日本に来てくれたことついては感謝というか、未だに信じられない気持ちでいっぱいです。
これまで『ミュージカル・ミーツ・シンフォニー』(通称MMS)などをはじめ、海外アーティストを招いたコンサートにも時々足を運んできましたが、そういう場でお目にかかるアーティストの多くが『レ・ミゼラブル』や『オペラ座の怪人』のご出身で、ほぼ例外なくそれらの演目からの曲を歌われていました。一方、今回『4Stars』で初来日を果たしたシンシア・エリヴォは、2016年トニー賞受賞女優とはいえ、『カラーパープル』という日本にはあまり馴染みのない演目のご出身。彼女が来日しなかったら、日本のミュージカルコンサートで『カラーパープル』のナンバーが歌われることは多分なかったのではないかと思います。
曲目やデュエットする相手との相性などの面でいろいろと難しい点も多そうだなと思いましたが、城田さんと歌った「私のお気に入り」は何度も聞いたことがある曲にも関わらず、ものすごく新鮮で気に入りました。(ただ、玄人向けなので、テレビの宣伝で歌うならもう少し別の選曲をしたほうが・・と思いましたけれども。)それから、『アイーダ』のEasy As A Lifeが聞けたのは貴重。ご本人もTwitterでアップしていて、海外のファンからも絶賛の声が。ロンドンで彼女主演の『アイーダ』を熱望する声もありました。ちなみに『アイーダ』のアイーダ役でトニー賞主演女優賞を受賞したヘザー・ハドリーは、『カラーパープル』2015年リバイバル公演のシャグ役でシンシア・エリヴォと共演しています。(ヘザー・ハドリーはジェニファー・ハドソンの後任として2016年5月から数ヶ月間出演していました。)
Rarely do you get a chance to be a part of something that allows you to, be with people you care about and play characters you can only dream of #4Stars you have been wonderful. Japan I’ve fallen in love with you, NYC mamas coming home. pic.twitter.com/yKRMQBrkYN
— Cynthia Erivo (@CynthiaEriVo) 2017年12月28日
『オペラ座』や『レミゼ』に走りがちな日本のミュージカル界のコンサートに新しい風を吹かせてくれたシンシア・エリヴォ。ありがとう。
<おまけ>
今回の『4Stars』では、オープニングで4人が揃う最初の曲がこの「カラーパープル」という楽曲でしたが、本公演ではこの曲を劇中にセリーとシャグが2人で歌い、ラストでリプライズとしてカンパニー全員が歌います。客席を真っ直ぐ見つめて優しく、そして力強く歌われるリプライズ。カンパニーが歌う「カラーパープル」の神聖さは、やっぱり作品があるからこそなのかなぁ。
この2015年ブロードウェイ再演のカンパニー(シンシア・エリヴォ含む)によるキャストアルバムは、グラミー賞を受賞しています。