もうこの勢いは誰にも止められない!我が道を突き進むのは4月8日にブロードウェイのオーガスト・ウィルキンソン劇場で開幕したミュージカル『ミーン・ガールズ』。2004年の映画をもとにしたショッキングピンクのコメディ・ミュージカルです。トニー賞で12部門のノミネートを獲得して一気に注目を浴びました。
ブロードウェイのラインアップに必要な作品。思いっきり笑って「こういう作品もいいよね!」とさっぱり帰ってきました。ホットなうちに観られてよかったです。
ざっくりと括るなら『キューティ・ブロンド』系。といっても、『ミーン・ガールズ』は高校生の話なので『キューティ・ブロンド』よりさらに賑やかで騒がしいです。まあ、嫌いな人は嫌いかもしれませんが、多分この作品はそんなことは気にせず、楽しんでくれる人のために全力でやっています。
あらすじとしては、動物学者の両親と共にアフリカ暮らしをしていた16歳のケイディがアメリカに帰国し、公立高校に通うという話。色々教えてくれるジャニスとダミアン、「プラスチックス」と呼ばれる人気で意地悪な3人組(レジーナ、グレッチェン、カレン)、レジーナの元彼のアーロンなど、学園ドラマに出てきそうなキャラクターが一通り出てきます。
脚本は映画と同じティナ・フェイ。映画にはご自身も出演されていました。ミュージカル版は映画のテーマや人気台詞を残しつつ、当時(2004年)にはなかったSNSなどを上手く取り入れて現代っぽさを出しています。女の子には人を傷つけるという類い希な才能があることはいつの時代も変わらない。(笑)
作曲はジェフ・リッチモンド。ティナ・フェイのご主人です。恐らく楽曲で圧倒しようとはしていない作品なので、正直なところ、一度観ただけではあまり記憶に残りませんでした。劇中では勢いに乗ってそれなりに楽しめます。なんだかんだ、CD買ってしまいそう。
演出と振付は共にケイシー・ニコロー(『ザ・ブック・オブ・モルモン』、『サムシング・ロッテン!』など)。1幕のカフェテリアのダンスあたりは結構印象に残ったし、ところどころでアイディアを感じる場面がありました。
セットは「ザ・デジタル」系。この作品においては、あの色鮮やかさと、わけのわからなさと、テンポの良さが効果的だったと思います。舞台は複数枚のパネルに囲まれた空間で進行し、アフリカ、各科目の教室、SNSからピンクな頭の中まで、観客をいろいろなところへ一瞬で連れていってくれます。パネルは襖のように横にスライドするので、好きなところで止めて180度どこからでもキャストが出たり入ったりできます。
大がかりなセット以外でも小道具の使い方が面白く、個人的には小回りの利く生徒たちの机やカフェテリアが気に入りました。
この『ミーン・ガールズ』は何が強いかというと、パフォーマンスの一言に尽きると思います。アンサンブルも含め、やり切っている感が気持ちよかった。キャストの多くは20代、しかも13名がブロードウェイデビューだそう。
こういう若さとパワーと微笑ましさは、いつどんな作品でも感じられるものではありません。でもこの作品にはそれが必要。客席、SNS、さらにはチケットセールの反応がいいので、ますます盛り上がって、今のこのカンパニーはある意味無敵な状態。私はトニー賞のノミネート発表があった週に観劇しましたが、最高のパフォーマンスを見せてくれました。
トニー賞にノミネートされたのはTaylor Louderman(レジーナ役)、Ashley Park(グレッチェン役)、Grey Henson(ダミアン役)の3人でしたが、トニー賞以外のドラマデスク賞やアウター・クリティクス・サークル賞などを含めるとErika Henningsen(ケイディ役)、Kate Rockwell(カレン役)、Barrett Wilbert Weed(ジャニス役)、Kerry Butler(ノーバリー先生、ジョージ夫人)もノミネート。ちなみにErikaとTaylorとAshleyは同じ大学(ミシガン大学)の卒業生です。若い世代が第一線でこれだけ活躍できるって素晴らしい。
主人公ケイディ役のErika Henningsenは歌いっぱなし。軽々と出る高音が印象的だったので経歴を確認したら、ブロードウェイの『レ・ミゼラブル』リバイバル公演でファンテーヌを演っていたとのこと。軽い衝撃。役柄的にプラスチックスと比べたらインパクトはありませんが、彼女の作品の中での在り方は多分適切で、嫌みのない雰囲気がとてもよかったです。
ひときわパワフルな歌声を聞かせてくれるジャニス役のBarrett Wilbert Weedは、プロモーション活動でも歌唱要員として大活躍。この作品で最もパンチのある “I’d Rather Be Me” は彼女が歌います。
ダミアン役のGrey Hansen(トニー賞助演男優賞ノミネート)はオープニングからインパクトのある歌声で目を引きました。『ザ・ブック・オブ・モルモン』の出身。
プラスチックスのボス、レジーナ役はTaylor Louderman(トニー賞主演女優賞ノミネート)は、実はあまり歌わないのですが雰囲気ばっちり。
カレン役のKate Rockwellはマイワールド全開で何をやっても笑いが起きる素晴らしい存在感。劇場中が彼女のカレンを気に入っていたと思います。
そして、今シーズン大躍進を遂げたグレッチェン役のAshley Park(トニー賞助演女優賞ノミネート)。自信がなくて周りに流されてばかりいるけれど、とても健気なグレッチェン。彼女が歌う “What’s Wrong With Me” は胸に刺さったなぁ。同シーズンのオフ・ブロードウェイ作『KPOP』でもルシル・ローテル賞主演女優賞を受賞して、勢いのある女優さんです。
主演も助演もよく歌えていて、個性の強いキャラクターに皆ちゃんとハマっている。『回転木馬』のように世界的オペラ歌手やブロードウェイのベテラン俳優を揃えたわけではないけれど、キャスティングはかなりの腕だったと思います。
このカンパニーでまた観たいし、多くの人に観てほしいけれど、このカンパニーの次のキャリアが楽しみでなりません。
トニー賞で12部門のノミネートを獲得した『ミーン・ガールズ』。確実に観客の心を掴んでいました。毎週水曜日のみ販売されているラッシュチケットには、深夜2時や3時から並び始めているそう!もちろんツアーも視野に入れているはず・・・・・・と思ったら、記事を書いているうちに2019年秋からの米国ツアーがあっさりと発表になりました。
ブロードウェイではしばらく上演すると思いますが、熱が冷めるまではチケットが入手しづらいかもしれません。チケットの残席状況は早めにチェックするとよいです。狙い目は水曜日。良い席で観たい場合は少し先の日程を含めて検討してもよいと思いますが、これは熱いうちに観たほうがいいと思います。
最後にミュージカル『ミーン・ガールズ』をこれから観るかもしれない方へ。客席は基本的に笑いが渦巻いているので、英語に自信のない方は映画で予習しておくといいと思います。帰り際の様子だと、主人公たちと同じくらいの年代の人だけでなく、そんな時代はとっくに過ぎた大人もかなり楽しんだみたいでしたよ!