間もなくシアタークリエで開幕する『キューティ・ブロンド』(主演:神田沙也加さん)は明るくハッピーなコメディミュージカル。日本には初上陸ですが、ブロードウェイでは2007年に初演された作品です。世界各地で上演されて今でこそ人気ミュージカルといえる作品になりましたが、ブロードウェイでは決して大成功を収めたわけではありませんでした。
2007年のトニー賞では7部門でノミネートされたものの受賞はゼロ。作品賞はノミネートさえ逃してしまいました。トニー賞だけでなく、ドラマデスク賞、アウター・クリティクス・サークル賞などのブロードウェイの各種賞でもノミネートはありましたが受賞はなし。本当に全滅状態でした。劇評での評判もmixed(賛否両論)〜mostly negative(概ね不評)という感じでした。
でも、この作品の成功はブロードウェイの先にありました。
本作はブロードウェイ公演中に本編を収録し、MTV(ミュージックテレビジョン)で丸ごとオンエア。さらには開幕当初からエル・ウッズ役を演じていたローラ・ベル・バンディの後任者を決めるオーディションの模様を8週間にわたって放送しました。
これがブロードウェイ公演後に計画されていた米国ツアーにものすごい宣伝効果を発揮し、ツアーは行く先々で大盛況。約18ヵ月のブロードウェイ公演で投資を回収しきれなかったことが嘘のようにチケットが売れたのだそうです。『キューティ・ブロンド』のようにブロードウェイで18ヵ月上演できる力を持っている作品の場合、売り方次第ではツアーで成功できるケースもあるということを示した作品になりました。こちらがオーディション番組の映像の一部です。
『キューティ・ブロンド』はその後2010年にロンドンでも上演されました。脚本や曲はブロードウェイ公演から特に変えず、演出もブロードウェイと同じジェリー・ミッチェルでしたが、2011年のオリヴィエ賞で作品賞と主演女優賞を含む3部門を受賞する大ヒットになりました。
ロンドンの劇評でも、筋書きに問題があるとか、耳に残らない曲があるとか、欠点はいろいろと指摘されましたが、ブロードウェイとは異なり「そんなのどうでもよくなっちゃうくらい楽しい!」という感想や反応が圧倒的に多かったのです。まさに、観客が変わったら受け入れられたパターン。テレグラフ紙が劇評の1行目にこんなことを書いていて笑ってしまいました。でも、この気持ちすごくわかります。(笑)
OMIGOD! I tried, I really tried to hate this show, but resistance is futile. It’s going to be a huge hit…
オー・マイ・ゴッド!この作品を嫌いになろう、なろうと頑張ったけれど、無駄な抵抗だった。大ヒットになるよ(後略)
Charles Spencer, The Telegraph, January 14, 2010
さらにすごいのは、大がかりなセットなどをカットして、ブロードウェイでは1500万ドルほどかかっていたの上演コストをロンドン公演では380万ドルに抑えていたこと。
For ‘Legally Blonde,’ we looked at the whole production and worked out what we needed to keep in order to make it work and lost the elements that made it so expensive, mainly the huge physical production.
私たちは『キューティ・ブロンド』という作品全体を見て、この作品が機能するために何が必要なのかをよく考えた上で、高くついていた要素をなくしたの。主に大きなセットをね。
Producer Sonia Friedman, quoted in Brits flock to the West End for entertainment, April 15, 2010
ちなみに、『キューティ・ブロンド』はブロードウェイでは1700席規模の劇場で上演されましたが、ロンドンでは1100席規模の劇場で上演されました。舞台と客席の間に親近感が生まれたこともよい方向に働いたといわれています。(この作品を609席のシアタークリエで観ることができる日本の観客は超ラッキー!日本の観客はどういう感想を持つのかな・・。)
その後もカナダ、オーストラリア、フランス、韓国、フィリピンを含む多数の国で上演されています。『キューティ・ブロンド』はブロードウェイ公演こそ作品の評価という面でもビジネスという面でもイマイチでしたが、今では十分に成功した作品といえそうです。
こちらがオリジナルブロードウェイキャストCDのレコーディングの模様。米国ツアーでは、テレビで曲を覚えてしまった観客が客席で口ずさんでいたようですが、さすがに日本では無理かな・・。日本語版のCDがないため曲の予習ができないのが残念ですが、メロディーだけでも!(左:ブロードウェイ版CD、右:楽譜)
ちなみに 『キューティ・ブロンド』の英語タイトルは Legally Blonde(リーガリー・ブロンド)です。