こちらで2017年のグラミー賞最優秀ミュージカル・シアター・アルバム賞ノミネート作と2016年のトニー賞楽曲賞ノミネート作を並べてみました。大体同じだけれど微妙に違う2 つのリスト。なぜでしょうか。
そもそもこの2つの賞は選考の観点が異なります。トニー賞の楽曲賞は名前の通り「楽曲」で評価されます。一方、グラミー賞の最優秀ミュージカル・シアター・アルバム賞(以下グラミー賞)は、「アルバム」に対して贈られるため楽曲だけでなく音楽パフォーマンスとプロデュースも含めて総合的に評価されます。トニー賞の楽曲賞は作曲者と作詞者に対して贈られますが、グラミー賞ではプリンシパルソリスト、作曲者、作詞者、プロデューサーの名前がノミネート/受賞者情報に含まれます※1。
※1:グラミー賞最優秀ミュージカル・シアター・アルバム賞の受賞対象となる個人については、これまで度重なるルール変更が行われてきました。現在は、プリンシパルソリスト、作曲者、作詞者、プロデューサーの名前がノミネート/受賞者情報にリストされます。
トニー賞の楽曲賞は “Best Original Score” という賞の名前からもわかるようにオリジナル作品(初演の作品)のみが選考対象です。一方、グラミー賞はアルバムに対して贈られる賞なのでリバイバル作品もノミネート/受賞の対象になります※2。2017年は『カラーパープル』と『屋根の上のヴァイオリン弾き』の2つがリバイバル作品からノミネートされ、『カラーパープル』が受賞しました。
※2:ただし、リバイバル作品のように新曲がない場合や新曲の比率が少ない場合は、作曲者と作詞者はノミネート/受賞の対象になりません。
評判の良いリバイバル作が多い年の場合、トニー賞の楽曲賞でノミネートされた新作ミュージカルがグラミー賞の最優秀ミュージカルシアターアルバム部門のノミネートからは漏れてしまうということが起こります。『スクール・オブ・ロック』はそのパターンだったといえます。
トニー賞とグラミー賞は選考対象期間の境目が異なります。トニー賞は開幕日が基準で通常4月下旬でカットされますが、グラミー賞はキャストアルバムのリリース日が基準で9月末でカットされます。開幕とキャストアルバムのリリースには若干の時差があり、4月と9月というカットのタイミングにも約5ヵ月の差があるため、選考対象作品のラインアップが変わってくることがあるのです。したがって、トニー賞では対戦しなかった作品同士の対決がグラミー賞で見られることがあります。
例えば、トニー賞楽曲賞を2015年に受賞した『FUN HOME ファン・ホーム ある家族の悲喜劇』と2016年に受賞した『ハミルトン』は、グラミー賞では同じ年の選考対象になりました。結局グラミー賞を受賞したのは『ハミルトン』でしたが、もし『ハミルトン』のキャストアルバムがあと1ヶ月遅くリリースされていたら『ハミルトン』は2017年のグラミー選考対象になっていました。もしそうなっていたら、いろいろと違う結果を生んでいたと思われます。