ブロードウェイの劇場で驚くこと、それは休憩時間にできる長蛇の列です。しかも、その列が進むスピードの遅いこと!!列の先にあるのはお手洗いです。
ブロードウェイでミュージカルを観るなら絶対に知っておかなければいけないことの1つに「トイレ問題」があります。ブロードウェイの劇場の女性お手洗いは大変混雑します。「え?でも日本の劇場でも休憩時間にはお手洗いの長い列ができているのだから、ブロードウェイだけが特別ってわけでもないんじゃない?」と思った人がいたら大間違い。混雑のレベル、さらには混雑への対応が日本とは全く異なるのです。
日本の劇場では、休憩時間に長いお手洗いの列ができていても、大人しく並んでいれば時間内に順番が回ってくる場合がほとんどです。「お手洗いの列に並んでい2幕の開演に間に合わなかった」という話はそんなに頻繁には聞きません。それに対してブロードウェイの劇場では、大勢の人がまだお手洗いの列に並んでいるのに平気で2幕を始めてしまいます。休憩時間内にお手洗いを済ませられなかった人が2幕に遅れて入ってくるのをよく見かけますし、私自身も2幕の最初のナンバーを丸ごと見逃した経験があります。
せっかくの楽しいミュージカル鑑賞。トイレ難民になって大事なシーンを見逃さないように次の5つの対策を実施しておきましょう。
- 開演前には必ずお手洗いに行きましょう。基本的には終演まで行けない覚悟で挑むことをおすすめします。また、一度行っておけばお手洗いの場所や個室の数などを把握できます。
- 必要以上に水分を取らないようにしましょう。特にトイレに行きたくなる飲み物には要注意です。
- 休憩中にお手洗いに行く必要がある場合は、1幕が終わったら真っ先にお手洗いの列に並びましょう。「列が落ち着いてから並んだほうが待ち時間が短くなるかも・・」という考えは捨ててください。また、ちょっと一服したくなったり、興奮して感想を話したくなったりする気持ちはわかりますが、出遅れると取り返しがつきません。まずはお手洗いの列に並ぶことを優先しましょう。
- 1幕が終わった時点で時計を確認し、休憩時間が何時何分までかを計算しましょう。ブロードウェイでは休憩時間の残りをアナウンスしてくれない劇場が多いため、自分で時間を管理する必要があります。2幕の開演時間までに順番が回ってこなさそうなときは、あきらめて2幕に間に合うように席に戻るか、2幕の冒頭を見逃しても並び続けるかを決断しなければなりません。
- 劇場の周辺施設を確認しておきましょう。並ぼうと思ったときに列がすでに伸びてしまっている場合は、近くのカフェなどを利用してお手洗いも一緒にすませることを検討してください。
なぜここまで真剣勝負なのか・・。それにはアメリカの文化やブロードウェイの歴史の長さが影響しています。
ブロードウェイの劇場のロビーの様子を見ていると、日本の劇場スタッフの誘導がいかに素晴らしいか思い知らされます。日本の劇場スタッフはテキパキとした指示と誘導で要領よくお手洗いの列を捌き、「あと5分で第2幕が開演いたします」「2階のお化粧室のほうが空いております」など気の利いたアナウンスをしてくれます。そして列の進み具合に常に気を配り、どうしても列がなくならない場合は2幕の開演を数分遅らせるという措置をとっていることもあります。
一方、ブロードウェイの劇場はというと、時間内に何が何でも列をなくそうという意欲はあまり感じられません。「あとどれくらいかかるの?」「全然列が進まないけどどうなってるの!」「男性お手洗いを使わせて!」という不満の声が飛び交っています。例えば、女性お化粧室の個室数が少ないことで有名なBrooks Atkinson Theatre(2017年2月現在『ウェイトレス』が上演中)では、劇場スタッフに抗議している人を見かけたこともあります。
ちなみに、『ウェイトレス』は主人公がパイ作りの名人という設定で、ロビーで演目にちなんだパイを販売しています。通常の演目よりも食べたり飲んだりしている人が多く、これがまたお手洗いの列に悪影響を・・。
ブロードウェイの劇場のお手洗いが混雑するのは、スタッフだけに原因があるわけではありません。そもそも観客数に対して絶対的にお手洗いの個室の数が足りていないのです。
ブロードウェイには歴史ある劇場が多く、100年近く前に建てられたものも珍しくありません。100年前と今とでは客層や観客の行動が異なるため、現在のニーズに対応できないのはある意味仕方のないことです。建設当時の観客の男女比などを考えれば、女性用の個室が5〜10しかない劇場があることも理解できます。
一方、近年のブロードウェイにおける観客動員数は過去最高水準まで達しています。空席多数の状態で上演している公演では問題が顕在化しない場合もありますが、100%稼働の完売公演やそれに近い人気公演の場合は大変です。ブロードウェイミュージカルの人気が高まっていることは喜ばしいのですが、観客動員数の増加に劇場の設備が追いついておらず、「トイレ問題」をより一層深刻にしています。
劇場側も決してこの問題を黙認しているわけではありません。公演が入れ替わるタイミングで大規模な改装工事に踏み切る劇場は多く、一部の劇場ではいくらか状況が改善しています。また、長期公演が占領中の劇場は改装工事を行うことは容易ではありませんが、そのような場合でも列整のスタッフを増やすなどできる限りのことをして「トイレ問題」の解消に努めています。しかし、それでも足りない、そして追いつかないのが現状なのです。