例年になく沢山のミュージカルが開幕した2016〜2017年シーズンが終了して約半年が経過。ツアーや投資回収などの情報が続々と入ってきています。『アメリ』や『グレート・コメット』のように日本での上演が決定した作品も!
ブロードウェイ上演の結果だけで作品を評価することはできませんが、2016〜2017年作品の現状をまとめながら振り返ってみたいと思います。
新作ミュージカル
まずはすでにクローズした作品から。括弧内は上演回数です。(プレビュー+通常公演)
- Amélie『アメリ』(27+56=83回)
プレビューの頃から大量の空席を抱えて上演していたようで、トニー賞のノミネートがゼロだと判明した後、即座にクローズ&払戻しのアナウンスがありました。残念ながらオープン・ランのミュージカルの中ではシーズン最短でクローズ。投資額は1,200万ドル。ほとんど失ったと思われます。2018年1月末時点では、米国内ツアーなどの話は入ってきていません。一方、日本では早くも2018年5〜6月に上演決定。主演は元AKB48の渡辺麻友さん。演出も変わりますし、本国に忠実に上演するパターンではないようなので、成功することを願っています。
プレビュー:2017年3月9日
オープン:2017年4月4日
クローズ:2018年5月21日
トニー賞:ノミネート0、受賞0
投資額:1,200万ドル - In Transit『イン・トランジット』(36+145=181回)
2010年にオフ・ブロードウェイで上演されていた作品が、ブロードウェイのサークル・イン・ザ・スクエア劇場という円形劇場で上演されました。ブロードウェイ初のアカペラミュージカル。ニューヨークの地下鉄を舞台にたくましく生きる人々の姿が描かれます。ミュージカル版『アナと雪の女王』の楽曲を手掛けるクリスティン・アンダーソン=ロペスがクリエイティブチームに入っていました。
プレビュー:2016年11月10日
オープン:2016年12月11日
クローズ:2017年4月16日
トニー賞:ノミネート0、受賞0
投資額:700万ドル - Bandstand『バンドスタンド』(24+166=190回)
トニー賞はノミネート2部門のうち1部門(振付賞)を受賞。授賞式のパフォーマンスが好印象で、その後は売上げが大きく好転しました。ブロードウェイでは投資回収できませんでしたが、米国内ツアーやプロダクションによる公演に向けて版権会社などとの提携を済ませているので、もうひと踏ん張りあるかもしれません。
プレビュー:2017年3月31日
オープン:2017年4月26日
クローズ:2017年9月17日
トニー賞:ノミネート2、受賞1
投資額:1,350万ドル - Groundhog Day『恋はデジャ・ブ』(31+176=207回)
ウエストエンドでオリヴィエ賞を受賞した作品がこのような結果になってしまうとは・・。ナルシストなお天気キャスターがアメリカの田舎町で同じ日を延々と繰り返すという映画ベースの作品です。トニー賞7部門ノミネート後は売上げが伸び始めたものの、授賞式のパフォーマンスがイマイチ盛り上がらず、気付けばあっという間に失速。巨額の投資はもちろん回収できず。プロデューサーは、米国内ツアーやウエストエンドでの再演の道を探ると言っていましたが、2018年1月末時点で実現の見込みはありません。
プレビュー:2017年3月16日
オープン:2017年4月17日
クローズ:2017年9月17日
トニー賞:ノミネート7、受賞0
投資額:1,750万ドル - War Paint『ウォー・ペイント』(33+236=269回)
化粧品業界の2大ブランドの創立者であるヘレナ・ルビンスタインとエリザベス・アーデンの戦いを描いた作品。パティ・ルポーンとクリスティン・エバーソールの2大女優の共演が売りで、その通りに評価されたという感じ。投資は回収しきれず。
プレビュー:2017年3月9日
オープン:2017年4月6日
クローズ:2017年11月5日
トニー賞:ノミネート4、受賞0
投資額:1,100万ドル - Charlie and the Chocolate Factory『チャーリーとチョコレート工場』(27+305=332回)
ロアルド・ダールの児童小説『チョコレート工場の秘密』がベースとなった作品。2013年6月〜2017年1月にはウェストエンドでも上演されていた作品ですが、ブロードウェイ版はクリエイティブチームの多くが入れ替わっており、完全に別物だと言われました。トニー賞とは無縁でしたが、ファミリーを中心とした一定の客層を掴めたため売上げは保てていたようです。気付けば『バンドスタンド』『恋はデジャ・ブ』『ウォー・ペイント』などの一部のノミネート作よりも長い上演に。しかし、現時点では投資回収できていないだろうという噂。すでにオーストラリアのツアーが決定しており、英国ツアーの話もあるようなので、まだまだ踏ん張るのかな。
プレビュー:2017年3月28日
オープン:2017年4月23日
クローズ:2018年1月14日
トニー賞:ノミネート0、受賞0 - Natasha, Pierre and the Great Comet of 1812『ナターシャ、ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』(32+336=368回)
シーズン前半に開幕して今シーズンを引っ張ってきた、オフ・ブロードウェイ上がりの客席融合型作品。題材はトルストイの『戦争と平和』です。主に舞台装置と演出効果による「今までにない劇場体験」が売りで話題性は十分でしたが、それだけと言えばそれだけ。12部門のトニー賞ノミネートを得たものの、装置デザイン賞と照明デザイン賞の2部門の受賞にとどまりました。その頃にはちょうど目玉キャストだったジョシュ・グローバンが抜け、売れ行きが低迷し始めたかと思ったら、後任者のキャスティングでトラブルがあり人種差別の問題に発展。最後は突如クローズしてしまいました。投資額1,400万ドルのうち、回収できたのはわずか20%だったそう。残りは今後のツアーや版権などでの回収を狙っていきます。2018年には米国内ツアー、2019年にはウエストエンド公演が計画されています。日本では東宝が2019年1月に東京芸術劇場のプレイハウスで日本語版を上演すると発表。主演は井上芳雄さんで演出は小林香さん。東宝はブロードウェイ公演がクローズした直後、上演権を獲得したようです。本作は会場の雰囲気と演出が最大の見どころなので、どこまでやるのか注目です。
プレビュー:2016年10月18日
オープン:2016年11月14日
クローズ:2017年9月3日
トニー賞:ノミネート12、受賞2
投資額:1,400万ドル - Paramour『パラモア』(31+366=397回)
シルク・ド・ソレイユがブロードウェイの常設劇場で行った初のミュージカルショー。
プレビュー:2016年4月16日
オープン:2016年5月25日
クローズ:2017年4月16日
トニー賞:ノミネート0、受賞0
ここからは2018年1月31日時点で上演を続けている作品です。
- Anastasia『アナスタシア』
映画ベースの作品。開幕当初から世界中に持ち込む計画を発表していましたが、ブロードウェイでの評価はイマイチ。ヒット作という印象はありませんが、映画の原作ファンと知名度で上演は継続できています。
プレビュー:2017年3月23日
オープン:2017年4月24日
トニー賞:ノミネート2、受賞0 - Come From Away『カム・フロム・アウェイ』
プレビュー開始直後には割引ルートに出回っていましたのが、訴求力のある題材と強い口コミですぐに売上げは安定。トニー賞は1部門(演出賞)のみの受賞でしたが、失速することもなく作品としては大成功を収めています。2017年10月に投資回収済み。カナダプロダクションも2018年1月にウィニペグでの公演を終え、2月からはトロント公演(再演)に入ります。2018年10月からの米国内ツアーも決定。ブロードウェイ公演のチケットは現時点で2018年9月まで販売されています。キャストやセットの融通が利く作品なので、多くの道が開かれています。
プレビュー:2017年2月18日
オープン:2017年3月12日
トニー賞:ノミネート7、受賞1
投資額:1,200万ドル - Dear Evan Hansen『ディア・エヴァン・ハンセン』
トニー賞ミュージカル作品賞受賞作。トニー賞ノミネート前後も、受賞前後も、ずっと人気です。しばらくは安泰かな。投資額は950万ドルで、2017年7月時点で回収済み。トニー賞主演男優賞を受賞したベン・プラットはカンパニーを抜けましたが、助演のオリジナルキャストの多くは1年目の終わりに契約を更新してまだ残っています。2018年には米国ツアーも開始予定です。
プレビュー:2016年11月14日
オープン:2016年12月4日
トニー賞:ノミネート9、受賞6
投資額:950万ドル - A Bronx Tale『ブロンクス物語』
1993年の映画ベースの作品。トニー賞で受賞どころかノミネートさえされなかった本作が上演2年目に突入しています。『ジャージー・ボーイズ』を牽引したプロデューサーの戦略的なプロモーションにより、ブロードウェイのファンから高評価を得ることを狙うのではなく、この作品に興味を示す世代や地域の客層から選ばれることに注力した結果、今のところ成功が続いています。2018年秋からの米国ツアーも発表されました。
プレビュー:2016年11月3日
オープン:2016年12月1日
トニー賞:ノミネート0、受賞0
投資額:1,000万ドル
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リバイバルミュージカル
ここからはリバイバル(再演)作品。
- Cats『キャッツ』(16+593=609回)
主に観光客が観に行ったようです。投資回収の目処は立っていたようですが詳細はわからず。
プレビュー:2016年7月14日
オープン:2016年7月31日
クローズ2017年12月30日
トニー賞:ノミネート0、受賞0 - Miss Saigon『ミス・サイゴン』(24+340=364回)
こちらも観光客に人気の演目ですが、ウエストエンドで好評だったエヴァ・ノブルザダとジョン・ジョン・ブリオーンズを連れてきたので、多くのブロードウェイファンも足を運んでいました。
プレビュー:2017年3月1日
オープン:2017年3月23日
クローズ:2018年1月14日
トニー賞:ノミネート2、受賞0
そして現在も上演中の作品が1つ。
- Hello, Dolly!『ハロー・ドーリー!』
ベット・ミドラー主演で開幕。大変な人気を博しました。ベット・ミドラーの出演は2018年1月14日までですが、その後もバーナデット・ピーターズに交代して上演を続けます。
プレビュー:2017年3月15日
オープン:2017年4月20日
トニー賞:ノミネート10、受賞4
期間限定上演ミュージカル
最後に期間限定上演ミュージカルも。これらはいわゆる興行収入の落ち込み等によりクローズしたのではなく、最初から期間を定めて上演していたものです。
- Holiday Inn『ホリデー・イン』(38+117=155回)
ラウンドアバウト・シアター・カンパニーという非営利団体による期間限定公演。クローズ後にはネットでの配信もあったので、日本でも観たという人は多いかも。
プレビュー:2016年9月1日
オープン:2016年10月6日
クローズ:2017年1月15日
トニー賞:ノミネート1、受賞0 - Falsetto『ファルセットズ』再演(30+84=114回)
多くの俳優がトニー賞でノミネートされた『ファルセットズ』。授賞式では上演中でなかったにも関わらず、パフォーマンスを観ることができました。
プレビュー:2016年9月29日
オープン:2016年10月27日
クローズ:2017年1月8日
トニー賞:ノミネート5、受賞0 - Sunset Boulevard『サンセット大通り』再演(7+138=141回)
同作ですでにトニー賞主演女優賞を受賞しているグレン・クローズが同じ役を演じたリバイバル公演。今回はコンサートっぽいバージョンでの上演でした。
プレビュー:2017年2月2日
オープン:2017年2月8日
クローズ:2017年6月25日
トニー賞:ノミネート0、受賞0 - Sunday in the Park with George『サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ』再演(11+61=77回)
ジェイク・ジレンホールとアナリー・アシュフォード主演のチケット難だった公演。トニー賞は選考辞退。投票者を招待しなくてよくなった分、販売座席数が増えたことはよかったのかもしれません。短い上演期間であったにも関わらず投資も回収できたとか。
プレビュー:2017年2月11日
オープン:2017年2月23日
クローズ:2017年4月23日
トニー賞:選考辞退
最後に
19作のミュージカルが開幕した2016〜2017年シーズンでしたが、シーズン終了から約半年が経った現在(2018年1月末)もブロードウェイで上演されている作品はわずか5作。ブロードウェイを観察していると、ヒット作にも不発作にもやっぱりそれなりの理由があるのかな・・と思います。
今はミュージカルの市場が世界中に広がって、ブロードウェイで不発や赤字に終わってしまった作品にも、未来が開ける場合があります。「赤字作の輸出」というと聞こえが悪いですが、どこかで誰かが気に入るかもしれませんから。赤字作を輸入する際には、失敗の原因の見極めと戦略的なプロデュースを!!
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