2015-2016年シーズンのトニー賞ノミネート作『ウェイトレス』に出てくる “Bad Idea” というナンバーは、米国のiTunesでの単曲ダウンロード数が同作品の中で4位の人気曲です。実際の舞台では1幕終盤を盛り上げるイケイケのナンバーなのですが、よくよく聞き直してみると、難しい単語がほとんど出てこないという意味で大変貴重な曲。人気シンガーソングライターのサラ・バレリスによる作詞ですが、こんなにも限られた語彙で面白く適切にストーリーを描写できることに感動を覚えずにはいられません!
英会話でこんなフレーズを聞いたはありませんか?
It’s a good idea.
それはいい考えだ。
この曲のタイトルは “Bad Idea” です。goodじゃなくてbad。 つまり「悪い考え」や「よからぬ考え」です。何がそんなに “Bad Idea” なのかは、歌詞からわかるようになっています。
タイトルは “Bad Idea” ですが、曲の中ではいくつかのバリエーションが出てきます。
a bad idea 悪い考え
a terrible idea 恐ろしい考え、最悪な考え
a very poor idea とてもお粗末な考え
さらにこんなバリエーションも出てきます。
a pretty good bad idea
pretty goodは「かなり良い」という意味。ではa pretty good bad ideaとはどういう意味でしょうか?「悪い考え」をpretty goodでさらに形容しているので「かなり良い、悪い考え」という意味になります。つまり、悪い考えを肯定しようとしているのです。
中盤までは「こんな過ちを犯してはダメだ、抑えよう」という内容の歌詞になっているのですが、最後は「過ちを犯してしまおう」という内容の歌詞へと変わっていきます。例えば、1回目と2回目のサビの出だしは Heart, stop racing ですが、3回目(最後)のサビの出だしは Heart, keep racing です。「心臓よ、ドキドキするのをやめてくれ」と歌っていたはずが、「心臓よ、高鳴り続けろ」に変わっています。stopとkeepを1語変えただけなのですが、意味がガラッと変わるのが面白いですね。stop doingとkeep doingは文型が同じなのでセットで覚えることができます。
ちなみにサビのいちばん高い音に振ってあるのはworseという単語です。make worse what was already pretty badというフレーズに出てくるworseで、「すでに大分酷かったものをもっと悪くする」という意味です。makeという動詞はSVOCという文型をとって「OをCの状態にする」という意味を持つのですが、ここではO(what was already pretty bad)が長いのでC(worse)の位置と入れ替わっています。最初は「こんな過ちを犯したら状況はもっと悪くなる」と歌っているのですが、最後は「過ちを犯して状況をもっと悪くしてしまおう」と歌っているので注目してみてください。