2017-2018ブロードウェイシーズンを締めくくるトニー賞授賞式。今年は『バンズ・ヴィジット』の大量受賞と予想を裏切る『アイランド』のリバイバル作品賞受賞、そして社会に向けたメッセージを含んだ数々のスピーチが印象に残る授賞式になりました。
『バンズ・ヴィジット(迷子の警察音楽隊)』が素晴らしい作品だということは重々承知しつつも、「まぁ他の作品が受賞してもいいかな」という部門は他の作品を優先して予想してみましたが、蓋を開けてみればほぼ『バンズ・ヴィジット(迷子の警察音楽隊)』一色だったという・・・・・・。もちろん、作品を支えているのはあくまで1人1人の個人なので、偏ろうが何だろうが、相応しい人が受賞すべきです。
振り返るときはなぜか作品別で振り返るのが好きな私。よろしければお付き合いください。
※パフォーマンスの曲名一覧(出演順)はこちらにアップしました。
- ミュージカル作品賞
- ミュージカル主演男優賞(トニー・シャルーブ)
- ミュージカル主演女優賞(カトリーナ・レンク)
- ミュージカル助演男優賞(アリエル・スタッチェル)
- 楽曲賞(デヴィッド・ヤズベック)
- ミュージカル脚本賞(イタマール・モーゼス)
- ミュージカル演出賞(デヴィッド・クローマー)
- ミュージカル照明デザイン賞(タイラー・マイコロウ)
- ミュージカル音響デザイン賞(カイ・ハラダ)
- 編曲賞(ジャムシールド・シャリフィ)
すごい作品になったなー。『プロデューサーズ』が12部門、『ハミルトン』が11部門、それに次ぐ10部門を獲得。可能性があるものはほとんど全部受賞した。他に強力な作品がなかったというと、「今」というタイミングが後押しした面はあると思うけれど、どの部門の受賞も納得できてしまうのが『バンズ・ヴィジット(迷子の警察音楽隊)』でした。よかった!!
しかし、この作品は楽曲披露による宣伝が難しい。コンテキスト外で1曲だけ聞いても「へぇーーー」となってしまいがち。トニー賞授賞式以外でもいろいろなナンバーを披露していましたが、どれもあまり上手くいっている感じがしなかったのですが、そのこと自体が、この作品が観客を満足させるために曲を書くのではなく、登場人物にとって本当に必要なときに歌わせていることを物語っているともいえます。何はともあれ、主演の2人の演技力が素晴らしいことはバッチリ伝わったのではないかと思います。
それから受賞スピーチ。助演男優賞を受賞したアリエル・スタッチェルの力強いスピーチはもちろんのこと、演出賞を受賞したデヴィッド・クローマーが呟くように良いことを言っていて、静かに感動しました。
- ミュージカル装置デザイン賞(デヴィッド・ジン)
1部門かー。厳しい結果になったなぁ。唯一の受賞部門のスピーチもテレビ中継からはカットだったので、テレビを観ていた日tにとっては空気のような存在になってしまったかもしれません。
個人的には(売れるかどうかは別として)悪くない作品だと思ったので応援していたのですが、受賞結果はともかく、パフォーマンスにスポンジ・ボブが出ないことが衝撃でした。ギャヴィン・リーも4本足タップも好きだけど、 I’m Not A Loser は衣装もみんな同じだし、『スポンジ・ボブ』の売りである「多様性」があまり感じられなくて残念。『アナ雪』とは逆で、本編のほうがいい作品。
でも、スポンジ・ボブ役のイーサン・スレイターが司会の2人と絡みながら作品紹介したのはとってもイケてた。楽曲提供者の1人であるサラ・バレリスとも絡めたし。授賞式ではほんのちょっとしか出番がなかったけれど、イーサンはこの作品に20代の半分を捧げているんです(詳しくはこちらへ)。
現時点でチケットが発売されているのが9月まで。劇場自体が近々改装に入るという情報も流れてきているので、もうこれ以上の上演期間の延長は望めなさそう。興味がある方は早めに観に行かれたほうがいいかも。
ここは想定内。「歴代の受賞ゼロ作品の中では最多ノミネート」という、何とも言い難い記録を作りました。多分、宣伝広告ではこれからも「12部門ノミネート」を使いそう。日本とかね。(笑)
でも、脚本のティナ・フェイが受賞しなかったのはちょっと残念。多分、CBSは今年は彼女がノミネートされていて受賞が期待されていたから楽曲賞ではなく脚本賞の発表をテレビ放送したのでしょう。(昨年と一昨年は楽曲賞を放送して脚本賞がカットされました。)アメリカでの彼女の人気は本当にすごいんです。とっても面白いし。
パフォーマンスは登場人物紹介のイントロ系。ちょっと慌ただしくて、本編では爆笑だったところもあっさり流れてしまいました。チケット売れてるから、まぁいっか。多分、全員を出したかったんだろうな。その気持ち、すごくわかります。
今のエネルギーを持続できれば、映画の人気と口コミでしばらくは上演できる作品だと思います。『ミーン・ガールズ』、私も嫌いじゃないよ!!
本気でチケットを売りに来ました。WOWOWの中継で、宮本亜門さんが「本編以上かも」とおっしゃっていましたが、確かに。(笑)でも、城の門を開けるところなんかは、ラジオシティ・ミュージック・ホールくらいの大きさがあると迫力があっていいですね。『アナ雪』を実際の上演しているセント・ジェームズ劇場はちょっと窮屈そうでしたが、授賞式ではアンサンブルが銀橋まで出てこれたし。エルサも高音アレンジなどをかなり頑張っていたけれど、あれもトニー賞仕様。
あれ以上のシーンや見せ場が本編にあるかと聞かれるとちょっと困ってしまいますが、ああいう感じが好みであれば観に行ってみる価値があると思います。
- ミュージカル助演女優賞(リンジー・メンデス)
- 振付賞(ジャスティン・ペック)
予定通りに受賞。リバイバル作の中では最多です。
パフォーマンスの選曲には少々困惑。主演男優(ジョシュア・ヘンリー)と男性アンサンブルのダンスナンバーかぁ。とりあえず有名曲でいくという選択肢もあったと思うけれど、振付賞の受賞を想定してあの曲になったのかなぁ。
パフォーマンスに全く参加しなかったジェシー・ミューラーやルネ・フレミングの歌も素晴らしいので、是非、劇場に観に行ってみてください。
あと、助演女優賞を受賞したリンジー・メンデスのスピーチがとてもよかったなぁ。
- リバイバル作品賞
個人的には今シーズン最大のサプライズでした。でも、「え?何で?!!」というビックリではなく、「おぉーーー!すごい!!」という嬉しいサプライズ。作品賞/リバイバル作品賞だけを受賞するというのも、なかなか珍しいことです。
他の2作とは全く違うタイプ。小さな小さなおとぎ話のリバイバルが大作2つを押さえて受賞したというのはとても面白いです。(受賞した関係者もビックリしちゃってましたね・・・・・・。)
そして、素晴らしかったのがパフォーマンス。選曲はバッチリ。ステージングも、会場の客席に座っている人たち的には微妙だったかもしれませんが、舞台上のパフォーマーの前にもゲスト(災害支援団体のボランティアの方々)に座ってもらって、テレビ越しでもユニークなセットとイマーシブ感が伝わったと思います。(ただ、実際の舞台はもう少し広くて、あそこまでキャストと絡める席ばかりではないのでご注意を。こちらに劇場の特徴と座席の選び方のヒントを少し書きました。)普段は交互出演の子役の2人も両方出れてよかった。気になったのは、ヤギがラジオシティ・ミュージック・ホールを散らかしはしなかっただろうかってことくらいです。
シーズン前半に開幕したものの客足が低迷しており、トニー賞授賞式後はクローズするかもしれないとさえ言われていた『アイランド』ですが、これで未来が少し変わったかも。米国ツアーは授賞式前にアナウンス済み。どういうステージングにするのかわかりませんが、演出のマイケル・アーデンは「砂は使いたい」そうです。
作品の感想はこちら(準備中)
- 衣装デザイン賞(キャサリン・ズーバー)
うわぁーーー寂しい。ちょっと残念でした。全然悪い作品じゃないのに。
でも、パフォーマンスは素晴らしかったです。あと、私、やっぱりハリー・ハーデン=ペイトンのヒギンズ教授が好きみたいです。お芝居がとても好み。
昨年と一昨年がベット・ミドラー、ベン・プラット、リン=マニュエル・ミランダ、シンシア・エリヴォなどが活躍したスター性があるシーズンだったのに対し、今年は『バンズ・ヴィジット』という大人な作品が主役のシーズンだったこともあり、とっても落ち着いた授賞式になりました。昨年のような時間オーバーのスピーチもなく、みんなとっても協力的で。(笑)そして、授賞式全体として社会的メッセージが強い印象に。
司会のジョシュ・グローバンとサラ・バレリスも安全運転だったけれどよかった。司会に決まったとき、ご本人たちが「大変だ!スクリプトが要るよ」と言っていましたが、しっかり用意されていた様子。(ときどき2人が喋っている内容より同時通訳の人が喋る内容のほうが先を行っているときがあってビックリしました。)
この2人の司会の何がよかったかというと、受賞しなかったからといって決して敗者ではないことが、受賞したことがない司会の2人の素晴らしさから自然と伝わってきたこと。盛り上げ上手な司会もいいですが、こういう温かい雰囲気も悪くなかったです。近年ブロードウェイデビューした2人ならではのネタ(”8 Times A Week”)や、トニー賞敗者の2人ならではネタ(オープニングの”This One’s For You”)、そして、ブロードウェイやミュージカルが大好きな2人ならではのネタが盛りだくさん。大笑いは少なかったけど、微笑ましい夜になりました。
また何か思い出したら書き足します。受賞者の皆様、本当におめでとうございました!