笑って泣けて、静かな感動がいつまでも残るミュージカル『ファン・ホーム ある家族の悲喜劇』が2018年2月シアタークリエにて上演されることが発表されました。家族を描いたキャスト9名(大人6人+子役3人)の小さな作品はクリエにぴったり!
私がブロードウェイで『ファン・ホーム』を観劇したのはもう2年以上前のことになりますが、この作品を観たとき、数え切れないほどの作品を観てきた中でも感じたことがないような気持ちになり、今でも蘇ってくるような感動に包まれました。当時は「日本では無理かなー」「クリエみたいな小さな劇場でいつか上演されないかなー」と漠然と考えていたら、結構早く上演が決まって嬉しいです。
この作品にはたくさんの魅力があります。例えば「家族」という誰もがその人なりに共感できるテーマやLGBTを扱っているという社会性。また、大人のアリソンが漫画を書きながら子ども時代や大学時代のことを回想するという形でストーリーが展開します。時系列順ではなく、あの頃やこの頃へと行ったり来たり。瀬奈じゅんさんが演じる大人のアリソン(漫画家)は、ほぼずっと舞台上にいて、昔の自分や家族を見ているという面白い立ち位置で存在します。
2015年トニー賞では、『パリのアメリカ人』(劇団四季が2019年1月より上演予定)を押さえて作品賞、脚本賞、楽曲賞、演出賞、主演男優賞の5部門を受賞。専門家や業界内での評価が抜群に高く、さらにピューリッツァー賞ファイナリスト入りという貴重なミュージカルでもあります。
社会派ミュージカル、オフ・ブロードウェイ発、こぢんまりとした作品という点では、先日2017年トニー賞作品賞を受賞した『ディア・エヴァン・ハンセン』と共通点が多いですが、実際のところはかなり異なる印象です。『ディア・エヴァン・ハンセン』はフィクションですが、『ファン・ホーム』は実話にもとづくコミックがベースになっています。前者は勢いがあるのに対し、後者は知性が際立っています。
トニー賞授賞式では子役のシドニー・ルーカス(トニー賞助演女優賞ノミネート当時11歳)に丸ごと1曲をソロで歌わせるという思い切った決断を。これが抜群に効果的で、ここ数年の中で最も評判のよいパフォーマンスの一つといわれています。私は100回以上観ました。子ども時代のアリソンを見た後は、バックで幼い頃の自分を見つめる大人のアリソンを演じるベス・マローン(トニー賞主演女優賞ノミネート)にも注目を。無言で座っていますが、表情と醸し出される雰囲気にぐっときます。この静かでパッシブな役を瀬奈じゅんさんがどう演じられるのか楽しみ。
ブロードウェイでは8ヵ月という早さで投資を回収。現在も続いている米国国内ツアーも先日投資回収の発表がありました。世界的にはすでにフィリピンでレア・サロンガ主演で上演され、2018年夏にはロンドン公演も始まります。
ブロードウェイと同じスタイルであれば、休憩を挟まず1幕のみのノンストップ。日本語版プロダクションもハイクオリティーなものになることを期待したいです!
ブロードウェイ版キャストアルバム。左がCDで右がMP3のダウンロードです。